としょかんのこしょてんVOL.63 柳瀬正夢と村山知義

柳瀬正夢と村山知義

改憲論争が喧しい昨今、政府は公の秩序を強化する条文を新憲法草案に盛り込んでいます。しかし、それが国民の自由を束縛する事態になるのであれば由々しき問題です。なぜなら、かつて公の秩序を名目に、治安維持法により特高警察や憲兵が市民を監視する暗い時代があったからです。ここに紹介する2人も同法により検挙、投獄、拷問され、それでも自由な表現者たれと渇望しつづけたのです。それゆえ、プロレタリア表現者としての2人の痕跡は、80年以上経った現在も色あせることなく、常に労働者側に付き添い、決して自由を手放さない強い希求を私たちに呼び覚ますのです。

会期 2013年9月24日(火)~10月23日(水)
場所 千代田図書館9階=出張古書店コーナー
担当 水平書館/在日関係、部落問題、アイヌ、沖縄関係、障害者問題、女性問題、環境問題、社会科学

出張古書店コーナー「としょかんのこしょてん」とは・・・神田古書店連盟との連携展示です。担当古書店の方が、自店の商品をもとに、展示タイトルや内容、キャプションなどを考えており、古書店の商品を1つのテーマに沿って見られる貴重な機会です。

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柳瀬正夢 やなせ まさむ、本名は柳瀬正六、別名は夏川八朗 1900~1945 愛媛松山生まれ

家業は豆腐屋で少年時代を福岡門司で過ごします。10代は日本美術院研究所で絵を学び、わずか15歳で院展に入選するのです。油絵は大正アヴァンギャルドの影響を受けたシュ-ルな作品がすばらしいです。その後は積極的に芸術運動に関わり、前衛的芸術集団の「MAVO(マヴォ)の会」、未来派美術協会、日本漫画会、日本プロレタリア文芸同盟、漫画連盟に参加、共産党にも入党し、検挙、投獄もされました。漫画は時事新聞、無産者新聞紙上で活躍、装画は数々の前衛雑誌の表紙を飾り、挿入画を含めると膨大な作品数です。ポスタ-製作は、とくに水平社や全農の大会を何度か手掛けています。当展示品のポスタ-のように、農民の手を骨太で分厚くデフォルメさせた描き方は正夢の得意とした筆致です。当時のプロレタリア世相に呼応した技法といえるでしょう。舞台装置製作家としては村山と共同作業の実績があります。終戦直前の東京大空襲で死去、疎開先の娘に布団を届けるため新宿駅にいた時の悲劇だったそうです。なお、 自宅兼アトリエは東京三鷹牟礼にありました。

村山知義 むらやま ともよし、作品サイン表記tom 1901~1977 東京神田生まれ

医者の息子で開成中学から東京帝国大学へと進学した秀才です。母親の影響でキリスト教徒でしたが後に棄教し、プロレタリア芸術運動に目覚め、柳瀬らと「MAVO(マヴォ)の会」を結成したりします。小説家、劇作家、演出家、建築家、画家、デザイナ-、役者、舞台装置家、ダンサ-と多彩な才能に恵まれ、「日本のダヴィンチ」と称されました。しかし、柳瀬同様、共産党に入党し、検挙、投獄も経験しています。人生のすべてを演劇に捧げたといっても過言ではない人物です。心座、前衛座、労農芸術家連盟、前衛芸術家同盟、前衛劇場、左翼劇場、日本プロレタリア劇場同盟(プロット)、日本プロレタリア文化連盟(コップ)などで活躍します。反面、めまぐるしく変わる演劇環境に常に対応してきたしたたかさもあります。それは入獄中に転向し、出所後、転向文学の先駆けなった「白夜」を発表することや、敗戦直前に朝鮮、満州に逃避行したことに表れているのかもしれません。戦後は演劇人として復帰し、当展示品の「太陽のない街」などを東京芸術座で成功させました。最期の言葉は「演劇運動万歳」だったそうです。なお、息子は児童劇作家の村山亜土(1925~2002)です。

出品リスト

全58点 ※出品内容は予告なく変更になる場合があります。

柳瀬正夢

Y1 文化集団3巻1号 1935 文化集団社ヤケ ¥4000

Y2 プロレタリア文化2巻1号1932日本プロレタリア作家同盟書込背破¥5000

Y3 戦旗1巻7号 1928 戦旗社ヤケ背表裏紙破 ¥4000

Y4 戦旗3巻1号 1930 戦旗社ヤケ ¥6000

Y5 戦旗3巻3号臨時増刊号1930 戦旗社ヤケ少 ¥4000

Y6 戦旗3巻8号改訂版 1930 戦旗社ヤケ ¥5000

Y7 戦旗3巻4号 1930 戦旗社ヤケ少 ¥5000

Y8 戦旗3巻6号 1930 戦旗社 ヤケ背痛少 ¥6000

Y9 戦旗3巻10号改訂版 1930 戦旗社ヤケ ¥5000

Y10 女工哀史 細井和喜蔵 1925 改造社ヤケ ¥4000

Y11 工場 細井和喜蔵 改造社 ¥4000

Y12 失業者の歌 明石鉄也 1930 先進社ヤケ印裏紙書込 ¥10000

Y13 国際スパイ戦 早坂二郎訳 1930 大衆公論社裏見返書込 ¥10000

Y14 何が彼女をそうさせたか? 藤森成吉 1930 改造社痛少 ¥4000

Y15 1928年3月15日改訂版 小林多喜二 1930 戦旗社裏見返痛 ¥7000

Y16 戦旗2巻1号 1929 戦旗社背痛 ¥3000

Y17 法律戦線9巻3号 1930 生活運動社ヤケ ¥4000

Y18 柳瀬正夢画集 1930 叢文閣 背痛表裏紙シミ虫 ¥50000

Y19 柳瀬正夢百画集(復刻版) 2005 水平書館 ¥2000

Y20 柳瀬正夢画集掲載画稿「御主人のお気に召すやう」署名入25×18㎝ ¥150000

Y21 柳瀬正夢画集掲載画稿「嶮じ路を恐れて」署名入25×18㎝ ¥150000

Y22 柳瀬正夢画集掲載画稿「中々よく踊るぞ」署名入25×18㎝ ¥150000

Y23 第14回全国農民組合全国大会ポスタ- 54×40㎝ 折目破少 ¥50000

Y24 戦前世相漫画集(新聞切抜集) ¥10000

Y25 我等10巻2~11号 1928 我等社 ¥10000

Y26 無産階級の画家ゲオルゲグロッス 柳瀬正夢編 1929 鉄塔書院函痛少 ¥30000

Y27 文芸戦線創刊号 1924 文芸戦線社 ¥10000

Y28 審くもの審かれるもの 布施辰治・中西伊之助1924 自然社

村山知義

M1 陽:河野たつろ童謡集 河野達郎 1936 東宛書房書込多 ¥4000

M2 映画芸術史 岩崎昶 1930 世界社朱線印 ¥4000

M3 映画学入門 内田岐三雄 1928 前衛書房函 ¥4000

M4 同志 藤森成吉 1929 南蛮書房背痛 ¥7000

M5 映画と資本主義 岩崎昶 1931 往来社背痛朱線 ¥5000

M6 左翼劇場 村山知義訳 1931 中央公論社函痛少 ¥10000

M7 東洋車輛工場 村山知義 1931 往来社痛少 ¥20000

M8 勝利の記録 村山知義 1931 内外社ヤケ少 ¥10000

M9 新選村山知義集 村山知義 1931 改造社ヤケ少 ¥5000

M10 性欲と社会 村山知義訳 1928 文芸資料研究会函背補修 ¥4000

M11 獣神 村山知義 1937 竹村書房痛少 ¥20000

M12 戯曲集最初のヨ-ロッパの旗 村山知義 1930 世界の動き社背痛 ¥20000

M13 新劇の再建 村山知義 1947 弘文社ヤケカバ-無 ¥1000

M14 日本プロレタリア演劇論 村山知義 1930 天人社ヤケ少 ¥5000

M15 新興文学(全集月報)7号 1928 平凡社 ¥4000

M16 プロット1巻2号 1932 日本プロレタリア演劇同盟 ¥5000

M17 プロット特別増刊号 1932 日本プロレタリア演劇同盟 ¥5000

M18 文芸戦線4巻9号 1927 文芸戦線社背裏紙破 ¥2000【販売済み】

M19 戦旗2巻10号 1929 戦旗社ヤケ ¥3000

M20 望郷 池谷信三 1925 函背破シミ ¥7000

M21 戦旗2巻7号 1929 戦旗社背痛 ¥3000

M22 演劇3巻6号 1931 テアトロ社 ¥4000

M23 ナップ2巻9号 1931 全日本無産者芸術団体協議会線引背痛 ¥3000

M24 犯罪科学1巻2号 1930 武侠社 ¥4000

M25 青年演劇創刊号 1947 波里道発行所 ¥3000

M26 村山知義草稿「太陽のない街」東京芸術座上演台本原稿400×156枚ペン¥500000

M27 軟派創刊号 1929 裏紙欠 ¥6000

M28 文芸時代2巻5号 1925 金星堂